市内南部・十条エリアの工場や住宅が居並ぶ一角。「京都醸造株式会社」と小さく書かれたドアの向こうには、熱い思いを込めたクラフトビール造りの空間が広がっていました。
2015年に醸造を始めるや、あっという間に京都はもとより、大阪、東京のクラフトビールファンを虜にした『京都醸造』。立ち上げたのは、アメリカ人のクリス・ヘインジさん、ウェールズ人のベン・ファルクさん、カナダ人のポール・スピードさん。「なぜ、国の異なる人たちがわざわざ京都で!?」と疑問に思うのは当然ですよね。さっそく、醸造責任者のクリスさんに聞いてみました。
「僕らはそれぞれの理由で来日し、2005年頃に青森で出会いました。その頃から3人でよくビールを飲んでいましたね。日本の大手メーカーのビールも、クラフトビールも。その後、僕は青森を離れてから京都に来て、立命館大学で働きつつ『趣味のビールを仕事にしたい』と思っていたんです」
飲む方から造る方へ。自家醸造を経て、アメリカでクラフトビールについて学び、帰国後は『志賀高原ビール』で薫陶を受けたクリスさん。各々別の仕事に就いていたポールさんとベンさんの「気持ちを一新して何かを始めたい」という思いがちょうど一致した奇跡のタイミングにより、3人でブルワリーを立ち上げることに。現在はクリスさんが醸造を、ポールさんが経営全般、ベンさんが販売を担当しています。
「京都を舞台に選んだのは、伝統工芸と職人の街だから。8年この街で暮らしてみて、高い品質のものを受け止めてくれる土壌があると思ったんです。ビールに詳しい人じゃなくでも、"ええもん"はわかってくれるはず、ってね」
その読みが正しかったのは、開業から1年で倍以上に増えた生産量が物語っています。2016年6月の段階で、京都市内には12軒、東京8軒、大阪2軒の店に常設タップがあり、それ以外にも入荷希望が全国から届きまくっているのだそう。醸造所では常に7本のタンクがフル稼動し、樽に詰められたビールが次から次へと運ばれていきます。
これほどに多くの人の心をとらえる『京都醸造』のビールの特徴は何でしょう?
「僕が『志賀高原ビール』で修業していた時に言われたのが『飲みたいビールを造れ』ということでした。好きなものを造ったら、おいしいかそうじゃないかの判断がしやすいだろうと。なるほどなぁと思いました」
その結果、いわゆる"売れ筋"ではなく、本当に自分達が飲みたいと思う味だけを追求することに。
クラフトビール先進国であるアメリカと、歴史と伝統のあるクラフトビール大国ベルギー、双方のいいとこ取りともいえる製法で、これまでになかった味を生み出すというのがクリスさんの信条。ホップは主にアメリカ産、酵母はベルギー産を使用しているそうです。
ちなみに、クラフトビールは以下の工程を経てできあがります。
「(一度に大量で仕込む大手と違って)大まかな工程という"幅"の中で、好きなように遊べるのがいいよね」と、笑顔のクリスさん。「うちのビールはいうならばマニアックな品揃え。偏ったビールを好んでくれる人が予想よりも多くて嬉しい」
さて、そのラインナップはいかがなものでしょう。
定番にして、看板ビールのひとつである「一期一会」は、ベルギーの「セゾン」というスタイルを踏襲したもの。ホップの香りが立ち、ドライでさっぱりとした飲み口のビールで、特に蒸し暑い京都の夏には嬉しい一杯。
ほかにも、同じく定番のコーヒーやチョコレートの風味をイメージした黒ビール「黒潮の如く」をはじめ、季節限定商品も多彩に揃います。
ビールに冠する名前にストーリー性があるのも、『京都醸造』の特徴。たとえば、最初に醸造したビールは「はじめまして」、1周年を迎えて造ったのは「二度目まして」。ほかにも、「秘密」、「なごり雪」、「暗闇の閃光」などなど、気になるネーミング揃いです。これらは、「カタカナ英語が苦手」というクリスさんを始め、スタッフ全員で知恵を持ち合って決めるのだそう。
『京都醸造』のビールが飲める店では、名前の由来も知ることができます。ぜひ、スタッフに尋ねてみてください。
そして、ここで耳寄り情報を。
毎週、土曜と日曜は工場前のスペースを開放し、できたてのビールを提供しています。これ以上ない鮮度のクラフトビールを味わえるのは、ファンにとって最大級の幸せですよね。おつまみの持ち込み可、日によっては軽食のキッチンカーも登場するとのこと。運が良ければクリスさんたちと会話を楽しめるかも!?
※イベント参加などの場合は試飲スペースは営業なし。
スケジュールの詳細はHPまたはFacebookでご確認ください。