白川通の北大路を北へ少し行った、住宅地や店舗が並ぶ一角。
ごく普通の店舗(元飲食店)の奥で、一乗寺ブリュワリーのビールは造られています。
完成した樽やホップの保管用冷蔵庫を除けば、10歩も歩けば端まで届くような作業場にびっくり。
ビールを造る場所=工場というイメージなので、「こんなに狭い場所で造れるの?」というのが正直な思いでした。
こちらでは、数年前に先代が退職されたのをきっかけに、跡を引き継ぐ形で横田林太郎さんが新たなビール造りを始めました。そして、2016年1月に醸造所をリニューアル。「周山街道ビール」で知られる『羽田酒造』出身の林晋吾さんを迎え、現在は2人で醸造を行っています。
ちなみに、このように小規模な醸造所のことを「マイクロブリュワリー」と呼ぶのだそう。
横田さん:実は当社は発泡酒免許しか持っていません。というのも、ビールの醸造免許を取得するには年間60kglの生産量が必要で、うちのようなマイクロブリュワリーではとても無理。発泡酒免許ならその1/10の規模なんです。だからうちのビールは法律上は発泡酒と称されているんですよ。
林さん:でも、造り方は大手さんの工場と同じです。工程を機械化するか、人力で行うかは違いますが。
一乗寺ブリュワリーの特徴は、麦芽を約66℃の温水に入れて糖化させる際、直火で加熱するという仕込み法。一般的には、蒸気で間接的に熱を当てるのだそうです。
横田さん:直火を用いることでビールの風味に複雑性を与えることができるんです。鍋の底部が局所的に100℃近い温度になることで麦芽の硬い殻が壊れ、成分がより多く抽出されます。また、「デコクション」という、麦汁の一部を別の鍋に移して100℃に熱する伝統的な方法を用いることで、より複雑な味になるという利点も。ただ、いずれにしても麦芽から渋みがでやすい要因でもあるので、その程度が重要なのですけどね。
横田さん:うちのビールはハーブやスパイス、フルーツを使ったものが多いんです。ホップを加えるタイミングで素材を足して風味を付けるのですが、甘夏や梅、生姜を足す場合は小鍋に(製造途中の麦汁を)取り分けて果汁や果肉を加え、高温でしっかり風味を抽出してからタンクに戻すということもできます。こんな風に小回りが効くのもいいですね。
このようにして造られたビールの1つ、「ベルジャン ウィート」は、2016年の「インターナショナルビアカップ」(日本地ビール協会主催)のベルジャンウィット部門で銀賞を受賞。醸造初年にいきなりの快挙です。
林さん:ウィートとは小麦のこと。このビールは小麦の風味を活かしつつ、コリアンダーやナツメグ、オレンジピールで風味を付けています。「すべての基準をクリアしている。のびしろのあるビール」という評価をいただきました。
ほかにも、カレーに欠かせないスパイス・カルダモンを使った「ゴールデンエール」、飲み口のあたりは柔らかいのに高アルコールで後にクル「デストロイエンジェル」など、個性的な味のビールが揃います。
ブリュワリーでは試飲はできないので、味わいたい時は以下のお店へどうぞ。
※ブリュワリーは少人数に限り見学も可能です(1〜5名。無料)。
事前に予約をしてご訪問ください。
想像以上にマイクロな空間と、真摯な姿勢でビール造りを行う二人の姿に感嘆すること請け合いです。