この「クラフトビール探訪記」でいろんなお店へ取材に行かせていただいている中、かなりの確率でお会いするのが『山岡酒店』のご主人・山岡茂和さん。お店のオープン前にビールの樽を配達にいらっしゃるのです。京都のクラフトビール業界には欠かせない存在である山岡さん。今回はその本拠地である酒店を探訪します。
JR二条駅から千本通を北へ。千本上立売のバス停手前、西側にお店はあります。初めての方は店先をよーく見ながら歩いてくださいね。「よう、『お店がどこにあるのかわかりません』っていうお電話がかかってくるんです」と山岡さんが言うのも納得の、ちょっとしたわかりづらさ。
というのも、店頭に並ぶのは大量の酒瓶ではなく季節の野菜や乾物。一見、八百屋さんかとスルーしてしまいそうなそここそが、我らが目指すべきクラフトビールの聖地なのです。
山岡さんはこの店の三代目。
大学を卒業して家業に就き、2年ほど後にクラフトビールの取り扱いを始めました。
「大学時代に岐阜の『博石館ビール』(現在は撤退)を初めて飲んだときに、『やー、おいしいなぁ』と思ったんです。日本酒党やったんですけど、これもアリやなぁと」。
地ビールを扱いだして3年目、新発売された第3のビールよりも『コエドビール』(埼玉)の方が売れたとき、これならいけると確信して徐々に種類を増やしていったといいます。
現在では、常時約150種類の国産クラフトビールを販売。季節ごとの入れ替わりを含めると、延べ300種類は取り扱っているそうです。そんなにたくさんのビールが造られているというだけでも驚きですよね。
「ビアバーで呑んでみておいしかったというお客さんが『家で樽は呑めないけど、瓶ビールなら山岡さんとこに行けばあるから』とわざわざ買いに来てくださるんです」と山岡さん。関西のみならず、全国から目指してくるビールファンも少なくないとか。まさに聖地巡礼ですな。
で、聖地の冷蔵庫はとにかく見渡せど見渡せどビーーール! 収拾がつかないほど目移りしてしまいます。
ぽかーんと口を開けて眺めていると、奥様のあげさんこと揚子さんが助け船を出してくれました。
「欲しいものを決めて来られる方もいらっしゃいますけど、大抵の方はここで迷われます
ね。でも、楽しみながら迷っておられる様子を見るのが私もなんだか嬉しくて」。
揚子さんご自身もかなりお好きなクチで、曰く「自分が呑みきれない分を酒屋で売っている感じ(笑)」。おお、カッコイイ!
試飲と称して……もといちゃんと仕事として味を確かめるべく夜な夜なたくさんの瓶を開栓している山岡さんご夫妻。アドバイスも至れり尽くせりです。「前に呑んでおいしかったものや、どんな料理に合わせるのかなどをお聞きして、おすすめのものをご案内するようにしています」。
私めも個人的に買い物をさせていただきました。「キノコの和え物に合わせたい」という謎なオーダーにもビシッと回答をくれるあげさんマジすごい。
選んでくださったのは、『志賀高原ビール』(長野)の「山伏」シリーズ「山伏 弐 セゾンノワール」。
自家栽培のホップと酒米を使ったオリジナリティ満載のビールで、スキッとした飲み口の後に重層的なロースト香が立ち上がる個性的な味わいでした。結局、キノコではなく到来物の上等なすき焼き肉に合わせたのですが、霜降りの牛肉にもちゃんと拮抗する存在感と風味に大満足! ほかのシリーズも呑んでみたくなりました。
「この山伏シリーズもそうですが、冬はアルコール度数が高くてちょっと変わったビールがおすすめです」と山岡さん。
『サンクトガーレン』(神奈川)の「エル・ディアブロ」(悪魔という名の大麦のワイン)、「ウン・アンヘル」(天使という名の小麦のワイン)といった超個性派のビールもこの時季にいい感じだそう。山岡さん曰く「2015年、2016年のものを連続で置いているのは当店ならではだと思います」だそうで、これはぜひチェックしたいところ。
このように、ビアバーとはまた違う側面からクラフトビールに親しめるのが山岡酒店さんの大きな魅力。おうちで楽しむもよし、パーティに持参してクラフトビールの輪を広めるもよし。まずは一度足を運んでみてください。